3.正しい言葉

 話す言葉は口から出る風でしかなくても、その重要さにおいて書物や行動に劣らず、ふさわしい良い言葉使いは大きな事業を成功させることができ、弁護士や外交官、商人などは話すことで生計を立てています。危害のある一言が双方を喧嘩別れさせ国内に騒乱を起こすこともあり、たった一言の善い言葉が、殺し合いの戦いをしている二者を友人にすることもあります。

  害のある言葉は四種類あります。

    嘘を言う。        

告げ口をする。

    下品な(汚い)言葉を言う。     

無意味なお喋りをする。

 嘘とは真実と一致しないことを言うことです。真実は聞く人の利益になり、虚偽や欺瞞は聞く人の不利益になるので、誰でも真実を知りたがり、一度嘘を言われると、二度目にはその人の言うことを疑うようになります。嘘を言う人は誰からも嫌われ、一度嘘を見破ったら、その後誰もその人を信用しなくなるので、その人の言葉には価値がなくなります。嘘をつく人の行動も、話すことと同じくらいいい加減です。

 告げ口は誰かに危害を加える意図で言う言葉です。喧嘩させようと煽り、間違いや悪いことを他人に吹き込み、双方に悪口を言うことは憎しみを生じさせ、仲間割れや騒動を起こし、この種の言葉を言う人はどこにいても煩わしい問題を起こして周囲を混乱させるので、告げ口を言う人はアレルギー源のように誰からも嫌われます。

 乱暴な言葉とは下品な目的の言葉使い、隠しごと、呪いの言葉、侮辱、悪罵の言葉など、善のない人が話す不注意に満ちた言葉です。道徳が頽廃した時代には、身分の高い人も「俺、貴様」などという言葉を使い、一族や両親を怒鳴りつけて、それを良いこととしているのが見られます。すべての人が不注意なので、悪い結果について考えないからです。

 無駄なお喋りとは意味のない下らないこと、聞く人の利益にならないことを喋りまくること、あるいは自分は他人よりも良く知っているという自惚れで話すことで、この種の言葉は他人に害はありませんが、話す人に非常に害があります。自分自身への誤解が増すばかりで、良く知らないことまで知っていると思ってしまい、頻繁で多くなると、正しい知識のある善人に戻れなくなります。自分にとっても相手にとっても何の利益もなく、時間の妨害でしかありません。

 不注意だらけの人は、害のある四種類の言葉は聞く人に害があって、話す自分には害がないと誤解していますが、本当は聞く人や他の人がこうむる害は少なく、ほとんどは言った人の危険になり、特に下品な言葉と無駄なお喋りは、ほとんど全部話す人の危害になります。

 話す人と聞く人双方の利益になる善い言葉、聞いて気持ちの良い言葉も四種類あります。

    真実を言う。   

    友好的に話す。

    美しい言葉で話す。   

  役に立つこと話す。

 真実を言うことは善と同じくらい人間が望み、真実を言う人は人に好かれ尊敬され信用されます。誠実さで他人から好かれ尊敬される大人物になる人は、話す言葉に極力注意します。ラーマキエン(ラーマヤナ)物語のマリワラート王は、いつも言葉に注意して真実を言うので言葉に威力があり、マリワラート王の兵たちは武器を持たなくても、すべての人間と鬼と天人が畏敬しました。

 友好的に話すことは人間社会を幸福にします。好きな女性の親に結婚の許しを求める時は、友好的に話す年寄りが仲に立たなければならず、国際間の外交交渉をする時は友好的な外交官がいれば戦争は起こりません。世界の人が告げ口より仲裁や仲直りをする話し方を知っていれば、離婚や仲違いのような、たくさんの苦である出来事はあまり生じません。

 美しい言葉とは礼儀正しくて可愛げのある穏やかな言葉で話すことです。美しい言葉を話す人は他人を見下さない注意深い人で、誰もが畏敬し、使用人や目下の人に対して丁重な言葉使いをすれば、当然素晴らしい友情を育てます。罵ったり呪ったりせず、丁寧な言葉で話す練習をすると利益があり、人に好かれ、是非お付き合いしたいと思われます。心にも良い影響があり、心が穏やかになり、規律を愛すようになります。丁寧な言葉の商人はお得意が多く、丁重な言葉の上司は部下から畏敬され、権力で関わるより、あるいは何で支配するより遥かに善い成果があり、人を訪問したり迎えたりする時には、豪華な料理や他の何よりも丁寧な言葉使いが重要です。

 役に立つことを話すとは、知識を普及させたり善い行いをアドバイスしたりすることで、人は子供や孫、使用人、そして友達に忠告という利益になる言葉を言うべきです。人を楽しませるために、無意味にふざける必要はありません。含蓄のある滑稽な話や、行いの正しい人の楽しい話は、無意味なお喋りよりずっと面白いです。そして利益になることを話すことは聞いた人を向上させるばかりでなく、話す人もいろんなことを考え、真実のままに気づくことができます。「役に立つことを話しなさい。でなければ黙っている方が良い」という教えを信条とするべきです。

 正しい言葉に関する昔話があります。金持ちの息子四人が猟師の所へ鹿を貰いに行き、一人目は「おい猟師、俺に鹿をくれ」と言い、二人目は「猟師の兄さん、僕に鹿をくれないか」と言い、三人目は「父さん、私に鹿をください」と言い、四人目は「友よ、私に鹿をください」と言いました。(註)

 猟師は言葉にふさわしく鹿を分け、一人目には筋膜を一切れ、二人目には肉塊を一つ、三人目には心臓を、四人目には残りの肉全部を荷車ごと、おまけに自分自身を使用人に差し出しました。

言葉は私たちにとって重要なものの一つなので、自分と他人の双方の利益になる言葉使いができるよう、努力し練習するべきです。

 書物は非常に役に立つものと言われていますが、黙っている物で読者の期待や状況に合わせて変えることができないので、本は話す言葉よりも価値が低いです。ブッダや阿羅漢たちが仏教を教えた時代には、状況や聞く人に合わせてふさわしい言葉を使ったので、多くの人が理解し、真の幸福になれました。

 

 註=タイでは、他人でも自分より目下の人には「弟」「妹」、目上の人には「兄」「姉」、もっと敬えば「父」「母」などという呼び方をする。


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