父スッドーダナ王は、自分の息子が今は大悟してサンマーサンブッダになり、ラーチャガハにいるという噂を聞くと、すでに年老いたので、死ぬ前に一度顔を見せに来るよう、ブッダに伝えるために遣いを出しました。しかしスッドーダナ王の遣いがラーチャガハに到着した時、ブッダは人々に教えを説いていたので、遣いの男は言い付かった伝言を奏上しないで、最後まで説教を聞いていました。
ブッダが説いていたタンマは、その男にとって不思議なほど美しく真実があり、説教が終わった時には、そのタンマへの満足で心が踊り、命じられた用件を忘れてしまい、自分が使者であることも忘れてしまいました。だから伝言を奏上することなく出家を願い出て、タンマを聞くためにそこに住んでしまいました。(299)
スッドーダナ王は長い間待っていましたが、遣いに行った者が戻って来ないので、ブッダに伝言するためと、前の使者がどうなったか調べるために、新たに遣いを出しました。しかし第二陣の遣いたちも同じでした。夕方に到着した時、ブッダが説法をしていたので聞いて満足し、伝言を奏上するのを忘れ、同じように出家して比丘になってしまいました。
スッドーダナ王は第三陣、第四陣と遣いを出し、九回まで繰り返しましたが、毎回同じ結果になりました。つまり説法にうっとりしてしまい、自分を忘れ、伝言する勤めを忘れ、飢えたようにタンマを求め、もっとタンマを聞くために出家して比丘になってしまいました。(300)
スッドーダナ王は、遣いに出した者が一人も戻って来ないのを非常に怪訝に思い、何の情報も得ることができないので、息子の嫁であるヤショーダラ妃に頼んで、彼女の情報係りを遣いに出してもらいましたが、結果は同じでした。何人遣いを出しても、何の情報も得られないので、ヤショーダラ妃も力尽きてしまいました。(301)
スッドーダナ王は、昔シッタッタ王子と仲良しの遊び友達だったウタジという青年が王宮にいることを思い出し、ウタジを遣わせば、ブッダがカビラバスツに戻って来るかもしれないと考えました。そこで王は、みんながブッダの顔を一度拝めるように、カビラバスツへ来てくれるよう伝えるために、ウタジを遣いに出しました。みんなと言うのは、ブッダの父と妻と子と、王位を捨てて出家しなければ王子の領民になったはずの人々のことです。(302)
ウタジはラーチャガハの都に到着すると、なぜ遣いに出た者が一人もカビラバスツに戻って来ないのか、理由が分かりました。街に近づくと、ブッダが説法する声だけが聞こえてきました。ウタジは、以前に遣いに来た人たちと同じになることを恐れて、それ以上説法を聞かないよう努力しました。
説法が終わってから近づいて行って、深い敬意を込めて挨拶をし、父王と妃と息子と、すべてのカビラバスツの人々が王子の顔を拝みたいと焦れるほど渇望し、急いでお出で頂くことを望んでいると伝えました。ブッダは慈しみをもって「その人たちの望みを拒みはしない。その人たちに会うために、すぐにカビラバスツへ出発する」と答えました。
ウタジは急いで国へ戻り、「昔のシッタッタ王子様は、今はサンマーサンブッダになられ、父上の恩に報いるために、息子の義務を果たしに、間もなくカビラバスツに戻っていらっしゃいます」と伝えました。(303)
王を初め、カビラバスツのすべての人が、彼らを捨てて出家し、最高のタンマに到達するために六年間他人に貰った食べ物で暮らしていた王子が、今は望みどおりサンマーサンブッダになられ、多くの人の教祖となって、人間だけでなく多くの天人の教祖にもなり、そして自分たちに会うために戻って来られ、大悟したタンマを教えてくれると聞いて、非常に喜びました。(304)
人々は一斉にカビラバスツのすべての道路を掃除し、花と三角旗と色とりどりの布で家を飾り、自分たちの王子を自分たちの王の子として、そしてサンマーサンブッダとして迎える準備を整えました。(305)
世尊はある日の夕方カビラバスツに到着すると、出家者の伝統で都の郊外の森に泊まり、翌朝いつものように街の通りに托鉢に出掛けました。ブッダが托鉢しているのを見た人の中に、王にそれを知らせる人がいました。その知らせを聞いたスッドーダナ王は、驚きと同時に怒りで蒼ざめ、急いで馬車を用意させ、王子が乞食のように食べ物を貰って歩いていると聞いた街角へ駈け付けました。(306)
スッドーダナ王がその通りに到着すると、ブッダが道を歩いているのが見えました。食べ物がいっぱい入った鉢を手に持ち、王宮へ向かう道の方へ向きを変えるところで、人々が取り囲んで敬意を捧げていました。しかし何もかも自分のものである領内で、我が子が乞食するなど許す必要はないと考えていたので、スッドーダナ王は大きな怒りと悔しさに包まれていました。王は真っ直ぐブッダの前に行くと、恨みと悔しさの混じった口調で切り口上に言いました。(307)
「息子よ。これなのか、私が聞いた良い知らせというのは。お前が父の国を捨てたのはこうするためだけなのか。この国のどこにでもいる乞食のように、その日その日を乞食するために戻って来たのか。お前は王の息子であり、確実に王位を継ぐことができる王太子ではないか。お前は今日、父と王族を著しく貶めた。今まで我が家系にこのような振舞をした者はいない。今まで乞食のように食べ物を乞い歩いた者はいない」。(308)
ブッダは、すべて誤解のせいで怒っている父王に答えて言いました。「大王、これが私の本当の一族がしていることです」。スッドーダナ王は大声で言い返しました。「人々が知っている限り、私の一族はみんな国王だった。こんな恥さらしをした者はいない」。(309)
ブッダは淡々と答えました。「大王。それも正しいです。しかし今、私が意味しているのは世俗の人のように継承する家系ではありません。私は今サンマーサンブッダの一人です。私が私の一族のし方にしたがっていると言ったのは、ブッダ一族という意味です。昔のブッダたちもみな、このようにしてきました。すべてのブッダにふさわしく正しいのは、こうすることなので、私もそれに従っています」。(310)
ブッダは父王と一緒に王宮へ向かう道を歩きながら、「私は無一文になった人のように自分の生家に戻ったのではありません」と父王に言いました。ブッダは「値の付けようもないほど高価な宝石、世界で最高の価値がある宝石、人々を変化することのない幸福にする真実の宝石をたくさん持って来ました」と主張なさいました。(311)
王宮に着いたブッダが、自分が発見した苦を絶滅させる道であるタンマを、父と他の人達に詳しく分かりやすく説いて聞かせると、誰もがそれを理解し、ブッダの弟子としてそのタンマを受け入れて実践しました。それからずっと後に、ラフラというブッダの息子も、同じように出家しました。(312)
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